大逆転
「大逆転」
コンチネンタル航空−奇跡の復活
ゴードン・ベスーン/スコット・ヒューラー
日経BP社(1998)
FROM WORST TO FIRST(1998)
非常に面白い本である。帯からの言葉を引用してみよう。「憎み合う労使。乗客からは罵声の嵐。三度目の倒産の危機。リストラに怯える日々。こんなボロボロの会社を救おうと1人の男が立ち上がった。」立ち上がったのは、危機を救おうと強引にCEOになったゴードン・ベスーンである。この本はリーダーシップとは何かを教えてくれると同時に、私がいつも言っている「測定していないことは制御できない」の見本のような応用である。全てのリーダに薦めたい。
以下、抜粋である。
いままでのボスとは違う
私はこの十年間で十人目のCEOであり、次々と去っていった九人はいずれも、従業員をだまし、従業員から金を奪い、経営の失敗を従業員のせいにし、従業員に対してやってはいけないことをやり尽くしてきた。私は前の九人とは違うといっても、従業員がそう簡単に信じてくれるはずがない。従業員は馬鹿じゃない。見るところをちゃんと見ている。これまで何回もCEOは代わったが、いっこうに代わりばえがしなかった。トップが代わったぐらいで、ふらふらしている会社が急に元気になるはずがない。私も前の九人と同類だと、従業員は思っているに違いない。従業員からは、いやになるほど冷たい視線を浴びた。しかし考えてみれば、経験から学び、学んだことを生かして環境に適応していけるのは、いい従業員である。だから、コンチネンタルには、いい従業員が揃っていたのである。季節が巡るように経営陣が代わるコンチネンタルの環境に、みんな実によく適応していたのだから。
リーダーシップとチームワーク
象をどうやって食べればいいか。これは昔からある難問だが、答えはこうだ。一口ずつ食べる。だから、まずはがぶりと噛みつくしかない。食べはじめれば、食べる速度はどんどん上がる。
口先だけでなく実行
すばらしいアイデアはどこにでも転がっている。人並み以上に頭を使う人なら、実際にやっていることより、やりたいことのほうが多いはずだ。私だって、あなただって、アイデアはいくらでもある。仕事をしている世界中の人がそうだろう。コンチネンタルが息を吹き返すきっかけになったアイデアは、私が入社する前から、会社の中に息づいていた。いいアイデアを実際にどう生かすかが問題だったのだ。
フットボールを考えてみよう。得点を多く入れたほうが勝ちだということは、誰でも知っている。そして、ゴールラインの向こうに球を運べば得点になることを、誰でも知っている。しかし、知っているだけでは点は入らない。大事なのは、得点をあげるために選手一人ひとりが何をすべきかを考え、しっかりした作戦を立て、それを実行できる力をつけることだ。もちろん、選手のモチベーションをどう高めていくかも大きな問題だ。
お客さんの叛乱
だから私は言いたい。お客さんが欲しいと思うものを、お客さんに教えてやろうと思うなと。
CALライトは、発想が逆だった。どんなものが売れたらすばらしいかと考えることから生まれた商品だった。全席エコノミークラス、機内食なし、フライトは二時間半以内という構想が成功すれば、大きな問題を解決できるはずだった。苦戦している市場で突破口が見つかり、収益が上向くはずだった。しかし、いくら商品を売ろうとしても、その商品がいくら立派でも、お客さんが買ってくれなければどうしようもない。
結局、お客さんを追い払うことになり、利益が出るどころか、損失が膨らんでいった。
お客さんが行きたいところに、飛行機を飛ばす
コンチネンタルは取るに足らない市場でビッグ・プレーヤーになった。一部の人が重要と考える市場シェアで他社を寄せつけなかった。グリーンズボロ−グリーンビル線の市場シェアは、九十パーセントにも達していた。飛行機を飛ばせば飛ばすほど赤字は増えていったが、そんなことは問題ではなかった。ビジネス・スクールの卒業生は、市場シェアだけを気にしていたのだから。
グリーンズボロ−グリーンビル線を見ればわかるように、問題は市場シェアではない。どうやって利益をあげるかである。(評者注:サウスウエストのハーブ・ケレハーもまったく同じことを言っている。)
破産裁判所は会社を救ってくれない
愚行とは、同じことを何度も同じやり方で繰り返し、違う結果を期待することである、という定義がある。さて、この定義がコンチネンタルに当てはまるかどうか考えてみよう。一九九三年、更生手続きを終了して再スタートを切ったとき、コンチネンタルは盛大にパーティーを催して、浮かれ騒いだ。「バンザーイ。俺たちは破産しなかった。カンパーイ。」
そう、そのときは破産しなかった。破産しなかったから、問題が片づかなかった。だからこそ、グレッグが帳簿を洗いざらい調べたとき、私たちは破産の一歩手前にいたのである。破産裁判所は会社を救ってはくれない。延命処置はとってくれるかもしれないが、救ってはくれない。会社の人間にしか、会社は救えないのである。
何が起こっているか
財務の健全性を保つ秘訣は簡単である。いま何が起こっているかを知ること−−−それが第一歩。そして、起こっていることと知ることの時間差が縮まっていくほど、病気になる危険から遠ざかっていく。だから私たちは、財務に関して起こっていることすべてを、できるだけ早く把握するために、時間をかけ、お金をかけて、人を揃え、システムを整備したのである。
野球ではよく「ボールから目を離すな」という。私たちにとって、ボールというのは現金収支だった。現金を使い切ったら、ゲームは終わる(私たちはそのことを痛いほど思い知った)。お金はいま、いくらあるか、どこにあるか、昨日と比べ、先週と比べて、お金は増えているか、減っているか。そういう単純なことがすぐに正確にわからないようなら、経理の人間など会社にはいらない。
信頼性を現実に−−エアラインの本来の仕事を思い出す
谷底で死傷者を待つ救急車の話をしよう。
山の中腹に小さな町があり、麓からの道は曲がりくねっている。おそろしく危険なヘアピンカーブがあり、そこでは月に一台の割合で、車が谷底に転落している。
町議会はこの問題を放置するわけには行かず、道路のカーブを緩くし、注意を呼びかける標識を立て、ガードレールを設置するには、どれぐらいの予算が必要かを検討した。試算した結果、大変なお金がかかることがわかった。町の財政ではどうしようもない金額だった。しかし、車は毎月崖から落ち、死傷者があとを絶たない。なんとかしなければならない。そこで、もっと安上がりな方法を思いついた。
谷底に救急車を待機させることにしたのだ。
問題の解決を回避するために、人がいかに馬鹿馬鹿しいことを考えつくかという、お手本のような話である。私が入る前のコンチネンタル航空は、この手の発想が習い性になっていた。問題を解決するには、お金がかかりすぎる。だから、問題は解決できない、という考え方である。
恐れ入ったとはこのことだ。問題解決にはどれくらいのコストがかかるかを考える時には、別の問題も考えたほうがいい。道路を直すには、たしかに大変なコストがかかる。しかし、道路を直さなかった場合のコストはどう考えるのか。
上からの助け
それなら経営陣は遊んでいて、手柄だけ横取りするつもりなのか。
違う。経営陣の仕事は単純なものだと、私は思う。仕事ができる人間を雇い、必要な訓練を行い、必要な資源と支援を与えたら、あとは邪魔にならないようにそこをどく−−−それが経営陣の仕事だ。従業員が何か問題を抱えていたら、従業員が自分の仕事に集中できるよう、その問題の処理はこちらに任せろという。簡単にいえば、従業員にいい仕事をしてもらうために全力を尽くすのが、経営者の仕事である。
企業は人
会社の経営で直面する問題というのはすべて、人間の問題である。資金の問題、信頼性の問題、マーケティングの問題、どんな問題であろうと、正しいことをやらない人間がいるから問題が起こる。間違ったことをやるように、上司が指示している場合もあれば、問題を指摘すると厄介なことに巻き込まれると従業員が思っている場合もあるだろう。あるいは、無能な経営陣に愛想がつきて、従業員が問題解決の意欲を失っている場合もあるかもしれない。
いずれにせよ、仕事をするのは人間であり、人間が集まって会社ができている。だから、会社の中で発生する問題はすべて、その根っこを探していくと、人間に突き当たる。
企業文化の見直し
しかし、問題を解決しようとするとき、木を見て、森を見ない経営者、人間を見ることを忘れている経営者が多いように思う。つまり、従業員からどれだけ搾り取れるか、従業員をどれだけ効率的に使えるかを考える経営者は多いが、従業員が毎日どんな気持ちで出社してくるかを考える経営者は少ない。
「前進プラン」が軌道に乗るまで、コンチネンタルの従業員は毎朝、こう思いながら家を出ていた。何時に帰れるかはわからない(コンチネンタル機はひとたび飛び立てば、いつ、どこに着くかさっぱりわからなかったからだ)。きょうもまた、乗客にさんざん怒鳴られて、なすすべもなく、じっと我慢しなければいけない。やる気をなくした不機嫌な同僚と、また一日中、一緒に仕事をしなければいけない。そう思うと、仕事に向かう足取りは重かった。私はそれを知って、胸が痛んだ。そういう従業員を責めることはできない。だから、なによりもまず、毎朝、仕事に向かう足取りが少しでも軽くなる職場に、コンチネンタルを変えなくてはいけないと思った。
評論はしないが、注意は払う
みんなで力を合わせるということは、みんなで仲良く飲んで騒ぐことではないし、みんなにやさしくすることではないし、成り行きにまかせることでもない。ポイントは、一日中つきっきりであれこれ指示せず、あとでとやかく言わず、従業員を信頼して、現場の判断は現場に任せることにある。
結果を絶えず測定する
ポイントは、結果の測定をやめないことだ。会社がいまどこにいるかを教えてくれるデータはいくらでもある。大事なのは、そのデータから目を離さず、データが教えてくれることを信じることだ。
たった一言のアドバイス
友だちから、こんな話を聞いたことがある。いまは練達のハイカーだが、バックパック一つで初めて旅に出るときは、やはり不安だった。パッキングをしていると、次から次へと悪いことが頭をよぎる。それで、後悔しないよう、準備には万全を期すことにした。・・・しかし、世の中、すべてが計画とおりに行くとは限らず、一週間の道中で何が起こるかはわからない。それで、パーティーのリーダーを質問攻めにした。
リーダーははじめ、丁寧に答えていった。食料は余分に持っていくし、ひとりが足りなくなっても、みんなで分け合えばいい・・・・・・。寝袋が濡れたら、乾かせばいい・・・・・・。テントが破れたら、繕えばいい・・・・・・。ところがだんだんうんざりしてきて、しまいにはため息をついて、何も言わなくなった。そして、しばらく考えてから、次に言うアドバイスさえ守れば、必ず目的地にたどり着けるといった。
友人は息をのんで、そのアドバイスを待った。すべての問題を解決してくれる魔法のごときアドバイスを。
リーダーは言った。「止まるな」
アドバイスはたったこれだけだった。成功を続けたいと思うなら、成功するまでやっていたことを止めてはいけない。これは難しい。難しいが、それなしで成功の継続はありえない。
勝利にリーダーは不可欠
ポイントはこうだ。コーチは選手に何をして欲しいかを考えると同時に、どうすればそれをやってもらえるかを考えなければいけない。相手は血が通う人間であり、業務命令の紙ではない。コーチが試合に出て、選手の代わりにプレーすることはできない。パスもできなければ、ブロックもできない。コーチの仕事は何か。それは、選手にプレーさせることである。それを忘れてはいけない。
何のためのコミュニケーションか?
もちろん、それで終わりではない。そういうシステムが整ったあとも、従業員が情報を得やすい方法で、従業員が理解しやすい言葉で、すべてのことについて、コミュニケーションを図らなければいけない。何をすべきか従業員がわかっていないとしたら、それをやらなかったからといって、従業員を叱る資格は経営者にはない。経営者がある日、会社の目標を思いつき、退屈な幹部会議でその目標達成を指示し、あとは何もやらなかったら、従業員が目標達成のために何をやればいいのかわからなくても当然である。
目標と評価基準を明確にする
株主資本利益率などといった空虚な目標を掲げている会社は多い。こんな会社の経営者にぜひ、お聞きしたい。現場で働いている人たちが、株主資本利益率についてどう考えているというのか。たぶん、それが何を意味するのかさえ知らない人がほとんどだろう。わけのわからないものが目標になっているなら、努力のしようがない。会社の目標に自分はどう貢献できるのか、自分の仕事が業績にどう影響するのかを知っていなければ、仕事に熱は入らない。私たちが定時運行を目標に掲げ、オペレーションのあらゆる努力をその一点に集中しているのはそのためだ。定時運行の意味がわからない人はいないし、努力の結果は、定時到着率という数字になってはっきり現れる。だから何か新しいことをやろうという話が出たとき、問いかけることはただひとつ。定時運行にプラスになるかどうかだけである。
目標は達成可能なものでなければならない
目標は夢物語とは違う。達成が不可能なことを目標に掲げれば、従業員はしらけるだけである。逆に、現実的に目標を明確にすると、びっくりするような成果が出てくる。
コンチネンタルが定時運行のボーナスを出すようになると、雨後の筍のようにそれを真似する航空会社が出てきた。しかし、どこもコンチネンタルのようにはうまくいかなかった。なぜ?基本的なことを何もやらず−−整備の人間もまじえて運行ダイヤを考えることもせず、新しい仕事のやり方を従業員に説明することもなく、仕事に必要な道具を従業員に与えることもせず−−目標とボーナスを決めただけだったからだ。
誰の手柄か
前にも言ったように、多くの会社が犯しやすい間違いは二つある。ひとつは、間違ったことを測定すること。もうひとつは、正しいことを測定しながら、間違った人に報いることだ。

